Schritte in die Zukunft(Steps into the Future)  3回目の公演  2005年7月2日

Unerreichbare Orte
(到達されない場所)

振付 イリ・ブベニチェク
音楽 オットー・ブベニチェク
舞台美術 イリ・ブベニチェク
衣裳 エルサ・パヴァネル
台本 エド・シャウテン
ドラマツトゥルギー テルゼ・ハーマン

エレーヌ・ブシェー、オットー・ブベニチェク
シルヴィア・アッツォーニ、アレクサンドル・リアブコ
アーニャ・ベーレント、イリ・ブベニチェク
マリア・コウソウニ、ヨハン・ステグリ

フィリパ・クック、カロリナ・マンクーソ、ステファニー・ミンラー、大石裕香、マリアナ・ザナットー
シルヴァノ・バロン、エミル・ファスクートディノフ、カーステン・ユング、アルセン・メグラビアン、
ステファノ・パルミジャーノ、エドウィン・レヴァツォフ、コンスタンティン・ツェリコフ

ヴァイオリン アントン・バラコフスキー、ダイアン・ブシェー  語り手 エド・シャウテン、ピーター・ディングル
ピアノ オットー・ブベニチェク  歌 ダニエル・ドッド・エリス、ジョージ・Petean

(※ヤロスラフ・イヴァネンコの怪我による代わりとして)

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最初のシーンは薄暗い中、男女3組がそれぞれ同じ裾の長いスカートをはいて少し高いところに立って、お互いをはっきりと意識しているのかどうかわからないまま身をくねらせ、お互いを求めているようでもある。
このシーンはとても印象的で、スカートは火山をイメージさせ二人の上半身は火山の内部で身悶えるマグマのようでもある。原初の地球における生命の揺籃期のようにも感じた。
そのあと舞台は明るくなり(少しこのあたりは記憶がないのですが)、男女4組(3組までしか覚えていないが)のストーリーが踊られる。最初は愛することを愛している男女(たしかシルヴィア・アッツォーニとアレクサンドル・リアブコ)、次に相手を憎むことしかない男女、お互いにすれ違っている男女、と。
I love to love you, I hate to love you などど、ささやくようなナレーションが入る。

ああ、本当に思い出せません。どなたかお助けを。

オットーの音楽については、初めに感じた不安は吹き飛びましたが、こういう現代音楽風はコメントの仕様がないです。が、うまくまとまっていたと思いますし、オットーってマルチタレントなのね、とも思いました。
(S)




Beautiful Freak
(美しき奇形)

振付 マルコ・ゲッケ
音楽 チェット・ベイカー、マイケル・ユーリッヒ
舞台美術・衣裳 マルコ・ゲッケ
ドラマツトゥルギー エスター・ドゥレーゼン

シルヴァーノ・バロン
ティアゴ・ボーディン
ステファン・ボウゴン
アントナン・コメスタッツ
オーカン・ダン
ピーター・ディングル
エミル・ファスクートディノフ
アルセン・メグラビアン
アレクサンドル・リアブコ
ロイド・リギンズ
ヨハン・ステグリ
(ヤロスラフ・イヴァネンコ病気により、プレミエールBよりメンバーが12名のところ、11名になっている。)
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このタイトルをわざわざ日本語訳にすることもないかな、とも思いましたが、わたしの見たスタンスはこうだった、といことで、あえて日本語訳をつけました。
まず、独自のムーヴメントがとても興味深かったです。両手の5本の指を体の表面で順番にヒラヒラさせて、蛙のようになったり、ちょうどバタフライをステージの上でしながら上手から下手へ、下手から上手へ(ちょっとここはあまり記憶が定かではありません)と移動していったり(これには思わず拍手が湧きました)。
チェット・ベイカーの曲はノスタルジックであったりと、疎外されている奇形の情感が伝わってきました。これはロイドに拍手。
ただドン・ペリニヨン振付コンクールの時も感じましたが、どうも彼の音楽は大音響であることがあります。これが彼のせいなのかそれとも音響とのコンタクトが上手く取れていないのかわかりませんが。
もう一度見てみたいし、興味深かった作品です。
(S)







Polyphonia

振付 クリストファー・ウィールドン
音楽 ジョルジ・リゲッティ
指導 キャスリーン・トレイシー
衣裳 ホリー・ハインズ
ピアノ フォルカー・バンフィールド

へザー・ユルゲンセン、カーステン・ユング
シルヴィア・アッツォーニ、アレクサンドル・リアブコ
エレーヌ・ブシェー、ティアゴ・ボーディン
マリア・コウソウニ、ヨハン・ステグリ

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ポリフォニアとは多分多声対位法のことを意味しているのだろうから(私の辞書には生憎載っていなくって、彼のページも読んでいないので)、男女の4組が対位法的に踊っているんだと思います。
こういうバランシン風にはどうにも興味が持てなくて、私としてはもう見なくてもいいかな、と考えています。
でも来年、この公演の中に入っているのだから “Steps into the Future” を見るのならば見ざるを得ないのねえ。
ところで今回、ウィールドンはどの程度仕上げに満足しているのだろうか。
初日に彼が来ているかどうか聞きそびれたのだが、振付家自らがきちんと指導しない作品は往々にして作品の質が落ちると聞いたことがある。作品のスピリットがきちんと伝わらないのだ。
(S)





Wege

振付 服部有吉

音楽 ヨハン・セバスチャン・バッハ
無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV 1007 プレリュード
(この曲をMIDIとして取り込んでいます)
2つのヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV 1043 ヴィヴァーチェ
2つのヴァイオリンのための協奏曲 ハ短調 BWV 1060 第2楽章 アダージョ
ヴァイオリン協奏曲 イ短調 BWV 1041 アレグロ・アッサイ
ヴァイオリン協奏曲 イ短調 BWV 1041 アンダンテ
無伴奏チェロ組曲 第1番 へ長調 BWV 1007 プレリュード

舞台美術・衣裳 服部有吉

(※音楽の詳しいことは記憶にないのだがBWV1060はバッハの作品一覧からすると2台のチェンバロのための協奏曲となっている)


アントン・アレクサンドロフ、フィリパ・クック、ピーター・ディングル、アンドリュー・ホール
ゲイレン・ジョンストン、アルセン・メグラビアン、ステファニー・ミンラ−
アレクサンドル・リアブコ、セバスティアン・ティル、リサ・トッド、イヴァン・ウルバン

シルヴィア・アッツォーニ、シルヴァーノ・バロン、アーニャ・ベーレント、ロリス・ボナーニ、オデット・ボーヒェ−ル、ティアゴ・ボーディン、エレーヌ・ブシェ−、ジョルジーナ・ブロードハースト、ステファン・ボウゴン、アリソン・ブルッカー、ジョエル・ブーローニュ、ラウラ・カッツァニガ、クリステル・チェンネーリ、アントナン・コメスタッツ、ホアキン・クレスポ・ロペス、オーカン・ダン、ボイコ・ドセフ、カトリーヌ・デュモン、エミル・ファスクートディノフ、アンナ・ハウレット、カーステン・ユング、へザー・ユルゲンセン、ステラ・カナトゥーリ、マリア・コウソウニ、イリ−ナ・クロウグリコヴァ、アンナ・ラウデ−ル、カロリナ・マンクーソ、ニウルカ・モレド、大石裕香、ステファノ・パルミジャーノ、アンナ・ラプツィン、エドウィン・レヴァツォフ、ロイド・リギンズ、エミリー・スミス、ヨハン・ステグリ、コンスタンティン・ツェリコフ、ミリアナ・Vracaric、マリアナ・ザナットー、ディナ・ツァリポヴァ
ハンブルク・バレエ学校のテアタ−・クラスの学生たち

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舞台の中ほど左右に紗幕がかかって、最初は無音のまま、人々がしゃべりながら、肩を寄せ合いながら、
普通に表通りを歩いている(上手から下手、下手から上手)中で、何人かの人々のドラマが展開される。
バッハの音楽は澄んでいて、グールドのバッハを聴いたことがあるものなら、透徹したイメージといえば想像がつくかもしれない(グールドのバッハを好きな人ならばこの音楽の使い方に決して違和感はないでしょう)。
インタヴューの中にもあったように時にはヴィヴァルディを連想させる。
ダンサーの衣裳も有吉氏が考えたものだがこれがなかなか洗練されていて素敵だ。

AキャストとBキャストがあるそうなのだが、私が観た日は変則的なBキャストだったようです。

ずっとそこにいる人はアレクサンドル・リアブコで何かをじっと見つめているようで現実にあるものは何も見ていない印象を受けた。彼は踊った後、紗幕の前の中央でずっと座っている。最後に彼は崩れ倒れるのだが、それは彼の内部で崩壊が起こったのだ、という印象を与えていた。彼の存在感が舞台に緊張感を与えていた。彼に取りすがり現実の社会に引き戻そうとするのがフィリパ・クックで、この関係はサリンジャーの倒錯の森を思い出させた。

男女の心の揺れを表現していたのがゲイレン・ジョンストン/イヴァン・ウルバン/ラウラ・カッツァニガで、恋人同士だったゲイレンとイヴァンだったが、イヴァンの気持ちは冷めて、彼の関心はラウラの方に向かう。
ゲイレンはイヴァンの心を取り戻そうとするが、やはりイヴァンの気持ちはラウラに。
イヴァンのちょっと冷たい感じ、ラウラのシャープな、決して愛してはいないけど私と付き合いたいのなら付き合ってあげるわよ的な印象はとても現代的だ。
それでゲイレンの悲しみがさらに伝わってくる。

コケティッシュにはじけていたのがセバスティアン・ティル/リサ・トッド/ステファニー・ミンラーで楽しく過ごせればそれでサイコ−、といった踊りは楽しく、特にセバスティアンは水を得た魚のように生きいきしていた。

ではAキャストでは誰が踊ったのか? 本来ならばA、Bのキャストはどうあったのか?
サーシャの役はBキャストではゲイレン、取りすがったフィリパ・クックはAキャストではエレーヌ・ブシェ−、
ゲイレン/イヴァン/ラウラは、Aキャストではロイド/へザー/不明だったそうです。
わたしの友人はとりすがる情けないロイドはとてもいいだろうから、ぜひ観てみたいとわめいていました。
ここで面白いのは男女の役の転換です。そういえばこの三人はマニッシュなスーツを着ていました。
全く同じ振付なのかどうかは聞きそびれましたが、大変興味深いところです。AもBも、できればC、D(今のところはないでしょうが)も観てみたい。いろんな可能性を秘めた作品です。
コケティッシュにはじけていた3人組はAキャストではセバスティアン/ジョルジ−ナ・ブロードハ−スト/イリナ・クルゴリコヴァだとのことです。ジョルジ−ナもこういう役はさぞ良かっただろうと思います。

サーシャの役は服部有吉でも観てみたい。また違った印象を受けることでしょう。

そして強く願うのはどこかのバレエ団がこの作品を上演してくれることです。ハンブルクのダンサーがベストかも知れないけれど、この作品はダンサーによるヴァリエーションを可能にしているので違う素質を持つダンサーでぜひ観たいと思わせてくれます。
そしてこの作品で服部有吉のスタイルというものを感じました。

ノイマイヤー作品以外でこういう生きいきしたダンサーを観るのは大好きです。
(S)

最後に、このような異なるスタイルの4つの作品を踊り分けたダンサーの皆さんにはもう感嘆するばかりです。特に全作品に出演した、ヨハン・ステグリ、アレクサンドル・リアブコには惜しみない拍手を。(S)